書評執筆。

Yu-u22012-07-21



「山宣」の「反骨」精神を日常という文脈から照射
 ――激動の時代を生きたひとりの女性の記録が現在に問いを投げかける

 『図書新聞』第3072号(2012年07月28日)、5頁。


 今回はこちらの本についての書評を執筆させていただいた。大林道子、2012、『山本宣治と母多年(たね)――民衆と家族を愛した反骨の政治家』ドメス出版。

 山本宣治といえば、性教育の分野では名前を聞いたこともあるし、「右翼」と自称する人物から暗殺されるという最期を迎えた政治家というイメージは、わたしのなかにはあったものの、しかし、詳細はほとんど知らない、というのが、正直なところ。
 書評のお話をいただいてから、図書館で何冊か本を読み、その背景に触れることができたので、わたしにとっては良い機会であったともいえる。しかも、山宣って、同志社出身だったのね。先輩、だ。そんなことも知らなかったわけではあるが。

 本書は、母・多年に焦点を当てたタイトルなのだが、残念ながら、史料の多くはなく、多年本人が残した文章もほとんどない。であるから、必然的に、山宣のあゆみを辿りながら周囲の人々を浮かび上がらせるという手法になる。あらたな史料の発掘、そして再解釈と、かなり細かいところで、先行研究の検討もされているのが、本書の特徴ともいえるのかもしれない。

 歴史の話というものは、読者の想像力を駆り立てる。「明治」期のキリスト教のなかで生きた、山本多年という人物。その横顔を本書で垣間見たわけだが、それにしても、たくさんの女たちの歴史って、残されずに、かき消されていくのだろうな、なんて、月並みなことをまた考える時間でもあった。

 ちなみに、今回の書評記事のタイトルは、編集部による。一応、タイトルをつけて原稿を提出したのだが、より内容を示すものとして提案されたものを承諾したかたち。タイトルをつけるのって、ほんとに難しい、と思う。




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