論文執筆

Yu-u22012-03-10

在日韓国人コミュニティにおけるレズビアン差別:
 交錯する差別/錯綜する反差別」

 天田城介・村上潔・山本崇記編 『差異の繋争点:
 現代の差別を読み解く』ハーベスト社(2012年03月10日発行)、
 119−139頁。

 
 立命館大学大学院先端総合学術研究科の関係者の人たちで構成される研究会から生み出された一冊の本。その研究会の名は「地域社会におけるマイノリティの生活/実践の動態と政策的介入の力学に関する社会学研究」=通称「マイノリティ研」。グローバルCOEプログラム「生存学」創成拠点院生プロジェクトとして2011年3月まで活動。ここに活動報告が残されている。わたしもその途中から参加させていただいた。

 大阪生野(2010年2月)、京都東九条(2010年7月)、熊本・水俣(2010年11月)と、じつに3回の合宿をあいだに挟みながらであったのだけれど、その総仕上げの成果物。2010年11月には、いったん、山本崇記・高橋慎一編『「異なり」の力学――マイノリティをめぐる研究と方法の実践的課題』(生存学研究センター報告14=こことして出版されているのだが、そこからさらにおのおのブラッシュアップしての執筆、発行となった。

 目次は、生存学研究センターの本書の紹介サイトここに掲載されている。また、「はしがき」と「序文」は、ハーベスト社さんのサイトから読むことができる(ここ)。
 山本崇記さんの「はしがき」には、“社会(科)学へのいらだち”についての興味深い記述がある。じつのところ、それがメンバー全員にどのように共有されたのか/されていないのか、については、考える余地もあるのかもしれないけれど。しかし、度重なる検討会で、とくに山本さんが牽引しつつ、調整しつつ、参加者と議論しつつ、というプロセスに参与できたことは、本当に本当に貴重な体験であったし、わたしにとっては、有意義な時間と空間であった。

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 拙論 (第II部「もつれあう差別と抗い ―再編される性的秩序」/ 第5章) では、1998年に起こった、在日大韓基督教会におけるレズビアン差別(当時は「同性愛者差別」と呼んでいたが)というひとつの「事件」を取り上げた。おそらく、「差別の告発→問題化」というプロセスとしては、日本のキリスト教のなかでは“成功”した部類のひとつに数えることができるかもしれない事例ではある。というのは、総会が、事実確認会の後に「報告書」を作成、配布しているからだ。けれども、実際には、その後に何が残ったかというと、ほかの差別事件/事象と同様に〈風化〉していった、という現実があるだけなのだけれど。
 わたしにとっては、当時の資料を読み直しながら、立ち止まり、そこに集う人々の顔を一つひとつ思い出しながらの作業となった。
 それは〈風化〉していった以上、当時、一緒に動いたり、モノを考えたりしていた人たちに手渡せるものではないものの、わたしなりの、かれら/かのじょらへの間接的な応答ではある。

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 2011年に発行された生存学研究センター報告に掲載していただいた拙論とは、いくつか異なっている部分がある。

 ひとつ、書き足した部分は、当時の資料を読み返しつつ、なぜ、青年会がこの「事件」を「差別事件」として認識していったのか、その背景や、葛藤、コンフリクトを描き出した点である。

 ひとつ、大幅に削除した部分は、この論文が執筆可能になった背景、である。自分の身に起こった、あまり思い出したくない事例を言語化しておく必要があると、ずっと考えていたわけではあるものの、なかなか手をつけることはできなかったわけで。今回、それが可能になったのは、まさに「マイノリティ研」という空間の影響が多大にあった。それぞれのテーマは異なれど、お互いに論文を読み、コメントをし合うような空間と時間。そのなかで、直接的、間接的に支えられ、背中を押されながら、言葉を紡いでいくことができたような気がしている。
 
 そんな意味では(そういう意味でも)、ずっと研究会を牽引してくれた山本崇記さんや、合宿での濃い濃い時間を過ごした「仲間たち」には、本当に感謝したい。そして、「マイノリティ研」には、あまりふさわしくないのかもしれないけれど、じつのところ、お二人の教員の方たち、天田城介さんや小泉義之さんにも丁寧なコメントをいただたことや、傍で院生に対する「指導」の一端をみせていただいたことも貴重な経験だった。みなさん、ありがとうございました(こっそりとお礼を述べておく)。

 とはいえ、いただいたコメントについては、いくつも「今後の課題」という宿題にしてしまったわけではあるのだけれど。

 差異をめぐる争いは、まさにその差異によって繋がっている。
 すなわち、差異によって繋がっていながら、差異をめぐり争う。
 そうした差異をめぐる〈繋がり〉と〈争い〉を読み解いていく――。
 (帯より)

 ぜひ、多くの方々に手に取っていただきたい本である。
 ほかの方々のご論考についての感想は、また後日、あらためて述べてみたいと思う。




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